隣のランニングマンズ

12月に新居に引っ越してから早1か月。あの築半世紀以上ものおんぼろアパートでの生活について少し話しておこうと思う。

わたしのことをよく知らない人のために少し書いておくと、わたしは半年前まで住んでいた家を引き払う際に家具家電をほとんど捨ててしまったので、荷物がほとんどない。引っ越し後1週間は布団が無く、その後、寒さに耐えかねて寒い寒いと言っていたら、後輩がはるばる茨城からストーブを届けてくれた。しかも、帰り際「なんだか物語が始まりそうな家ですね」というメッセージを残して去った。素敵な後輩である。

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▲しかも私の留守中に物だけ置いて去っていくイケメンぶり

お風呂もないし、トイレも和式なので、ガス給湯器も壊れていたし、エアコンも死ぬほど汚れているので使えない、と、色々と不便なのだが、それでもやっと手に入れたわたしだけの城。誰が何と言おうと、住み心地は最高だ。

ただ、1つだけ困ったことがある。壁が薄いことだ。しかも、極端に。以前、住んでいたレオパレスでも壁が薄く、隣のスマホのバイブ音がかすかに聞こえたものだったが、今回の部屋に関しては、かすかに、というレベルではない。自分のケータイかと錯覚してしまうほどクリアに聞こえるのである。

これに気づいたときはショックだった。わたしが連日、友人と品のない話をしては、ガハガハとこれまた品のない笑い方をしていたことや、月に1度くらい来る悲しみの波で号泣していたこと、お酒を飲んでダンスミュージックをかけてクラブ気分で踊り狂っていたことなどがバレてしまうからである。

一度、「うるさい」の意味を込めてか、ドンっと壁を叩かれたこともあったので、やはり聞こえていたのだと思うし、それについては申し訳ない気持ちでいっぱいだが、迷惑をかけているのは何もこちらだけではない。隣に住んでいる(恐らく)おじさんの夜中のいびきが聞こえるのだ。

しかも、隣のおじさんがグゴーと大きな音を立てて、いびきをかいたかと思うと、合いの手を打つかのように、それよりほんの少し小さなボリュームで隣の隣のおじさんの、グゴーという音が聞こえる。「ラップバトルかよって感じだね」と知人の編集者さんに言われたが、阿吽の呼吸とはまさにこのことだ。

このいびきが聞こえはじめると、まず眠れない。寝ているおじさんたちは全く悪くないが、正直迷惑だ。わたしは段々とイライラしてきた。それに、こんな大きないびきをかくのだから、きっとすごく大きい人なんだろう……

そう考えているうちに、おじさんたちのことが気になってきた。隣のおじさんは、隣の隣のおじさんは、一体どんな顔をしているんだろう……。どんな格好をして、どのくらいの背なんだろうか……。毎晩、いびきを聞く度にわたしはまだ見ぬおじさんたちのことを考えながら、眠った。

そして、ある朝のことである。わたしが、ゴミ出しをしようと何度か部屋を出入りしていると、隣とその隣のドアが開くのがわかった。おじさんたちが外に出てくる。チャンスだ。

じっくりと目を凝らして、わたしはその決定的瞬間を捉えた。そして、正直なところギョッとした。出てきた2人のおじさんは真冬なのに2人ともランニングにももひき、サンダルといういで立ちだった。しかも、頭はつるつるとしていて、隣のおじさんは細く、隣の隣のおじさんはやや恰幅がいいものの、格好からヘアスタイルまで瓜二つだった。ドッペルゲンガーだ……。

瓜二つのおじさんは互いに真顔で挨拶をし、顔を合わせても死ぬことはなかった。わたしは開いた口がふさがらないままに、挨拶するのも忘れて、2人を目で追った。どうりで、息がぴったり合うわけだ。

そうして隣のランニングマンズは、寝ている間も仲良く真夜中のラップバトルをしている。その日によって2人の勝敗は異なるが、そのラップバトルを聞かされて眠れぬ夜を過ごすわたしは万年完敗です。

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